2017年6月6日火曜日

梶原一騎シンドローム


 かつて梶原一騎という漫画原作者がいました。

 『巨人の星』や『あしたのジョー』、『空手バカ一代』といった名作を次々と生み出し、『スポ根』モノと呼ばれるジャンルを確立した国民的売れっ子です。

 彼の作品において見られる典型的なパターンは、主人公が強敵や困難に対し、肉体的精神的に限界を突破するような超絶鍛錬を経て、敵に打ち勝ち、壁を乗り越えていくというストーリー展開。『特訓』という言葉が現在のように広く人口に膾炙するようになったのも、氏の作品の影響によるものでしょう。

 作品の中には、過度の特訓の結果、勝利と引き換えに選手生命を絶つようなダメージを受けたり、命まで落としてしまった主人公も。そんな『滅びの美学』を感じさせる悲劇的な結末も日本人の琴線に触れたのか、多くの大ヒットが世に出ました。

 これを「マンガの中のお話」として楽しんでいるだけなら良いのですが、『特訓』に大真面目に取り組んだ方って結構多いようです。その結果は……

 当院は『日本古武道伝』という看板をあげているからか、武道武術修行者や経験者が数多く来院されます。そういった方々の症状は、一般の患者さんと比べて重篤な場合が多いです。

 若い頃にグローブをはめてボコスカ打ち合うスパーリングをやっていた方は頚椎にトラブルが出て、現在は手先の痺れに悩まされています。

 華麗な蹴り技を目指して無理を重ねたであろう方は、無理が祟って腰椎すべり症に。蹴り技どころか歩くことにさえ支障が出ています。

 健康のためにと中国拳法を長年熱心に続けたご婦人は、膝を壊して車椅子の厄介に。

 かくいう私もかつての強引な武術稽古の結果、右股関節を壊して、十数年経った現在も常時違和感があり、調子が悪くなるとバイクを跨ぐ事さえ出来ません。

 梶原一騎氏が没してから30年あまり。少年期に『スポ根』の洗礼を受けた直撃世代が、その『スポ根脳』のまま指導者になっている例も数多く聞き及んでいます。

 彼らにぜひ知ってほしいのは、人間の肉体はとても頑丈に出来ていますが、同時に非常に脆いものでもあるということ。その見極めを誤ると、いたずらに選手生命を縮めるだけでなく、その後の人生においても苦しみ続けることになる場合もあるのです。

 この身は今生一度きり。生・老・病・死の四苦からは誰も逃れられぬとはいえ、我と我が身を自ら傷付け、無用の苦しみを自ら抱え込むような無理や無茶はするべきではないし、それを止めるのが本当の指導者ではないでしょうか。

 ちなみに昨今の人気マンガは、最初っから主人公がメチャクチャ強いか、強敵を打ち負かすには『特訓』よりも『友情パワー(?)』に頼るそうです。それが今後青少年の心理にどんな影響を与えるかは……私には分からないなぁ(汗

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