2016年11月21日月曜日

一期一会


 かつて、武田鉄矢氏がエッセイの中で「自分は俳優や歌手よりも煙草屋が向いていたかもしれない」と書いていました。

 曰く、母親と同じように店先に日永一日座って、煙草を求めてやってくるお客さんと「今日はいい天気ですねぇ」、「お気をつけて、行ってらっしゃい」と毒にも薬にもならぬ世間話を交わしながらの小商い。そんな単調とも言えるような仕事が向いていたのではないか、と。

 数十年前、それを読んだ私は「何をクダラナイないことを」と。当時、武田鉄矢といえば『金八先生』で、その主題歌の『贈る言葉』と共に大ブームを巻き起こした時代の寵児でした。

 仮にも大スターが、いかに実家の稼業が煙草屋だったとはいえ、なぜそんな「ツマラナイ」仕事に魅力を感じるのか。世間知らずのガキだった私には理解できませんでした。

 あれから数十年の時は流れ、業種こそ違えど、武田のカーチャンと同じような生活をしております。

 私だって若い頃は青雲の志を胸に、千載青史に名を刻まんと夢を膨らませていた時代もありましたが、まぁ、人には向き不向きがあるってことですかねぇ。

「こんにちは。はい、ベッドへどうぞ。今日はどうしました? どこが痛いですか?」と施術を始め、「終わりましたよ。二日くらいでもう一段楽になるはず。これで一週間様子を見て、まだ辛いようならまたご来院くださいね。どうぞお大事に」と患者さんを送り出す。

 それぞれの患者さんの来院を一期一会と肝に銘じて、その時間はひたすら「痛みが取れますように。楽になりますように」と念じながら施術に専念する。

 決して簡単な仕事ではありませんが、一度も苦に感じたことはありません。きっと、これこそが私の分際に見合った天職なのかもしれません。うん、そう信じましょう。

 ってなワケで、町外れの住宅地の奥深く、ひっそりと隠れるように看板を上げた整体院の狭い施術室で、今日ものんびりと皆様の来院をお待ちしております。

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