2016年6月2日木曜日

網代『和ダイニング あじあじ』の味に唸る。

 この店のことを知ったのはつい先週末のこと。

 『もとなび温泉』が終了し、東京へとんぼ返りする編集スタッフより、私たち地元組に「どこか途中で美味しいお昼を食べられるところはありますか?」と質問。

 御自身もグルメであり、広い人脈を持つ私の兄貴分、歯科医のH先生がそのネットワークを駆使して弾き出したのが、この『和ダイニング あじあじ』。

 曰く「熱海の飲食関係者が『こんな店があったなんて!』と打ち震えた」。曰く「1日で昼夜続けて通う人もいる」。曰く「有名芸能人が次々とお忍びでやってくる」。

 なーんか私のアンテナに引っかかって、いてもたってもいられず早速嫁さんと二人でお出かけ。

 国道135号から漁師町独特の細い路地の奥へ。とても飲食店がある雰囲気ではない。「目的地の設定を間違えたか?」と思い始めた頃に店の前へ出る。港に面した店は間口こそ狭いが(後で聞いたところ建坪わずか10坪)、場違いにさえ感じる都会的でお洒落な雰囲気。

 ちょうど開店したばかり。OPENの札を掛けようとしている女将さんに声をかけ入店。店内に入ってすぐに四人掛けのテーブル、そして奥に7〜8席のカウンター。

 カウンターの中には店名の入った野球帽をかぶったちょっと強面風のご主人。ランチの準備の仕上げに忙しく手を動かしている。

 本日のメニューは「カマスのフライ」か「ムギイカの煮付け」とのこと。それぞれ一つづつオーダー。お値段は2000円と2500円。どっちがどっちだったかな?

「ランチメニューは水揚げ次第。決まってなくて、その日入った魚によって変えてます」

 ご主人は「少しお時間みてくださいね」と言ったものの、程なく供されたのは、お刺身と小鉢が乗った朱色の半月盆。お浸し、イカ大根、カボチャの煮付け、生シラス。香の物。そしてお刺身は……「トロキンメにアジ、トビウオ、イカのヒレ(地方によってはズキンとか、カシラとか、エンペラとか呼ばれてる部分)、全部朝獲れ」と。ちょっとぶっきらぼうな物言いが、なんとも海の男、漁師町っぽい。


 ここで女将さんがご飯を出してくれる。私には容量たっぷりの“丸碗”、嫁さんには女性の小さな手にも持ちやすい“つぼみ碗”のお茶碗で。さりげなくも細かい気配り。「よかったらお代わりしてくださいね」と女将さん。

「魚は全部網代の地のもの、朝獲れ。わざわざ伊豆まで来て築地の魚出されたんじゃお客さん納得しないからね」とご主人。

 ちなみに私は魚の鮮度については実はちと五月蝿い。九州宮崎の実家の親父は真性の釣りキチ。自分の船を買い、ついには漁協に入って漁師の端くれにまで。一時期は親父が釣ってきたアジ、サバ、イサキ、タイ、イカなどなどを連日のように食べていたので、釣れたての地魚がどんな味かはよ〜〜く知ってる。かなり舌は肥えている。

 ただ、これはある意味不幸なことで、そんなレベルの魚をお店で食べようと思っても、普通ならば無理なハナシなのだ。ちょっと生臭かろうが、舌触りに違和感を覚えようが、周りに合わせて「美味しいですねぇ」と頷くしかない。

 しかし、そんな私が刺身を一切れ口に入れてぶっ飛んだ! 美味い! 本当に久しぶりに美味い刺身を口にしたよ。薬味? 醤油? そんなモンいらん! 素のままで魚が本来持つ旨味がプリップリの歯ごたえと共に口の中に広がる。

 あまりの美味さに陶然としていると主菜が登場。まずはムギイカの煮付け。ムギイカとはスルメイカの成長前の個体で、今の時期しか手に入らないのだとか。それを丸のままワタごと煮付けに。


 箸で切れそうな柔らかい身をそーっと取り上げてガブリと噛み付くと、口内に広がるのは『濃縮された海』の味。よく言う生臭い「イカ臭さ」は微塵もない。そして、その墨色の煮汁が染みた白飯の旨さよ。

 そして、もう一品のカマスのフライ。正直に言うと、これはあまり期待していなかったのだけど、サクサクに揚がった衣ごしに噛みしめると広がるカマス独特の甘み。



「ウゥッ! 美味っ!」っと、思わず声が出て、ハッと目を上げると、ご主人が嬉しげに目を細めて「刺身にしてもいいくらいのカマスを揚げてますから」とドヤ顔。

 さらに写真には写っていないけど、イワシのお吸い物がこれまた絶品。

「カタクチイワシを開いて頭と内臓を取り、湯引きをしてから出汁を取るんです。それにお酢で味付け。昔はこの辺の漁師の『沖あがり』として食べられてたけど、手間もかかるし、何しろ本当に新鮮なイワシじゃないと臭みが出るんで、今これを食べられるのはウチくらいかなぁ」とご主人。

 骨までホロホロのイワシ、絶妙な酸味、海から帰ってきた漁師さんの冷えた身体を温めたであろう優しい味。

 数多い小鉢もどれを取っても唸る味。よくある『単なる賑やかしの品数増やし』とは違います。上品な味のカボチャの煮付けの甘さが絶妙な箸休めだったなぁ。


 もうね、今こうやって文章書いてても、それぞれの味を思い出してツバが湧いて仕方ない。鮮度は抜群。仕事も素晴らしい。ご夫婦の応対も卒なく、押し付けがましくもなく、気持ち良い距離感。

 私は静岡に移り住んでもう長いが、伊豆で食事をしてこれほど感動したのは初めて。網代に一泊してでも夜の部にも行ってみたいなぁ。H先生、ご一緒にいかがです?




住所  熱海市網代279-31


電話  0557-68-1204


営業時間  12:00〜14:00,18:00〜22:00(ラストオーダー21:30)


定休日  火曜日 

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