2015年11月22日日曜日

シャーロック院長

「ドアを開けたら先生が険しい顔してこちらを睨んでいたのでビックリしました」


 先日、初めておいでになった患者さんにこんなことを言われ、しどろもどろでお詫びしました。別に機嫌が悪いわけでも人見知りが激しいわけでもないんです。

 クルマから降りてポーチの階段を上がってドアを開けるまでの時間、靴を脱ぐ動作、立ち姿のバランス、室内での数歩の歩行。それらをじっと観察することが私の施術のスタートラインなのです。

「この人はどこが痛いのかな? ズレているのはどの関節かな? 筋肉のバランスの崩れは?」

 このやり方は、誰もが知っているある有名な私立探偵から学んだ手法です。



 コナン・ドイルが創作したシャーロック・ホームズ、その人です。ホームズはその第1作『緋色の研究』でのちの相棒となるジョン・ワトソンを一目見ただけで彼がアフガニスタン帰りの元軍人だと見抜きました。その推理は独特の目の付け所と鋭い観察眼によるもの。少年時代にこのくだりを読んで衝撃を受けたものです。

 続く作品群でもホームズはベーカー街221Bの肘掛椅子に座ったまま、やってくる依頼人がどんな人物かズバリと言い当てています。

 これらは作者ドイルの医者時代の師であった外科医ジョセフ・ベル博士の『外見を観察することで人物を推理する驚異的な能力』そのものだったとか。

 翻って、私自身にはそこまでの能力も観察眼もありませんが、少なくとも専門分野の筋骨についてはド近眼の目ん玉をひんむいて『ただ見る(see)だけでなく、観察(observe)して』みようかと。

 とはいえ、まだまだ修行中の身ですから「百発百中、黙って座ればピタリと当たる」には程遠く、トンチンカンな推理を開陳することも。しかし、たまには問診もそこそこに聞いてもいない患部に手を伸ばして驚かれることもあります。

 念のために書いておきますが、決して超能力や神通力によるものではなく、タネもシカケもあるんですよ。

「初歩的なことだよ、ワトソン君。あらゆる可能性を排除した結果残ったものは、どんなにありえないようなことであろうと、それが事実であることに間違いないのさ」

 そんなワケなので、私が睨んでいるように見えても、どうぞ気になさらず。さぞや酷い御面相でしょうが決して噛みつきゃしませんから。

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