2013年10月21日月曜日

悲母観音 


その若いお母さんがひどい腰痛で来院されたのは、産後数か月のことでした。まるでロボットのようなぎこちない歩き方、診療ベッドの上がり下りや、ベッド上での寝返りでは痛みで唸るような低い悲鳴を上げるほど。

 痛みは出産直後から。以来、苦痛に耐えながら歯を食いしばって育児を続けてきたとのこと。「でもね、赤ちゃんを抱っこもしてあげられないダメな母親なんです」と、ほろほろ涙をこぼします。

 そんなことない。彼女は少しも悪くありません。

骨盤は背骨の一番下にある仙骨と、その左右にある羽根のような二つの腸骨の三つの骨が組み合わさってできています。

 出産時、左右の腸骨をつなぐ恥骨結合が緩み、腸骨が広がることによって産道を確保、出産となるのです。

 そして出産後、広がった骨盤は約一ヶ月ほどかけてゆっくりと正常な位置に戻ってきます。日本では昔からこの期間のことを『産後の肥立ち』と言い、安静にして母体をいたわるのが当たり前でした。

 ところが彼女の場合は初産、しかも帝王切開で出産したわずか三日後から「動かないと手術痕が癒着するから」と立って歩かされたというのです。「痛くて痛くて倒れそうになりながら病院の廊下を往復しました」

 そのせいで仙骨と腸骨の継ぎ目である仙腸関節が正常な噛み合わせに戻らず、体重がかかると強烈な痛みが出てしまうようになったのです。私に言わせれば、こんな無茶はありません。病院に対して怒りさえおぼえました。

 骨盤の調整は当流のもっとも得意とするところ。「大丈夫、必ず治るから。赤ちゃんを抱っこできるようになるからね」と彼女を励ましながら施術すること数度、徐々に痛みも引き、骨盤の状態も安定。

 最後に「これで様子を見てごらん。痛くなったらまたおいで」と彼女を帰したのが一年以上前のことでした。

 先日、その彼女から再び電話。

「お久しぶりです! 二人目を出産したのでまた診てもらいたいんですが」

 元気そうな声。嬉しかった。本当に嬉しかった。来院した彼女は母親としての強さと自信に満ちあふれています。蒼い顔の不安そうな女の子はもうどこにもいません。聞けばあの後、痛みは噓のように消えたと。おそらくは初めて見たであろう彼女の心の底からの笑顔は、私にとって何よりのご褒美となりました。


 妊娠出産は女性にとって一世一代の大仕事であり、母体へは大きな負担がかかります。これはどんなに医学が進歩しても変わることはありません。当流には、そんな女性の命をかけた頑張りを助け支えるための技術が四百年以上前より伝わっています。
 特に産後の不調は骨盤の異常に端を発していることが珍しくありません。お悩みの方、ぜひ一度当院にご相談ください。

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